研究課題
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ケモカイン-ケモカイン受容体-シグナル制御分子フロントファミリーの構造・機能ネットワーク解析からの免疫システムの解明および創薬開発

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代表機関:東京大学大学院医学系研究科
代表研究者:松島綱治

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人間の体を病原体から守る免疫防御反応では、白血球が病原体の侵入した場所にいち早く集まり攻撃します。このとき、白血球が必要な場所に集まる(遊走する)ための目印となる物質がケモカインです。ケモカインは、最近、エイズウイルスの感染やがんの転移にも関わっていることがわかるなど、さまざまな疾患の治療につながる物質として注目されています。

関節リウマチや動脈硬化などの慢性炎症性疾患は、炎症の起こった場所に白血球が集まりすぎて炎症が悪化します。従来の治療薬は白血球の集まりのみならず免疫反応を全体的に抑えるため、十分な効果を得ようとすると副作用が強くなってしまいます。そこで、白血球の行き過ぎた集まりだけを抑えたいという期待から、ケモカインの作用を阻害する薬の開発が世界中で行われています。

そのほとんどは、ケモカインが白血球の細胞膜にあるケモカイン受容体に結合するのを阻害しようというもので、これまでに開発は成功していません。そこで私たちは、細胞の中に着目しました。ケモカインが受容体に結合してから白血球が遊走を始めるまでに、白血球の中では次々に反応が起こります。この一連の反応の一部を断ち切って、遊走を抑えようと考えたのです。

最初のケモカインCXCL8およびCCL2を発見するなど、私は、20年以上一貫して免疫システムの制御に関する研究を展開し、治療薬開発に貢献してきました。そのような研究の中で、最近、CCL2の受容体に結合する新しい分子を見つけました。「フロント」と名づけたこの分子は、ケモカインが受容体に結合したというシグナルを白血球内部に伝えて遊走を引き起こします。そのため、私たちは受容体とフロントの間の結合を阻害する物質は、治療薬の候補となると考えました。

そこで私たちはCCL2、受容体、フロントをケモカインネットワークと定義し、分担研究者の熊本大学大学院医学薬学研究部の寺沢宏明教授のグループと協力して、このケモカインネットワークの構造と機能を解析し、ネットワークを制御できる化合物を探索しています。この化合物の探索には東京大学大学院薬学系研究科の長野哲雄教授と同大学生物機能制御化合物ライブラリー機構の岡部隆義特任教授のご協力をいただいています。フロントはこれまでに報告されているどの分子にも類似していないため、構造解析は工夫とノウハウで克服します。フロントとその周辺のネットワークが解明されれば、創薬に新たな道が開けると信じています。

ケモカインネットワークが関わるさまざまな疾患
ケモカインネットワークを解析して、慢性炎症性疾患の治療薬開発に役立てる。
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