研究課題
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抗体を用いた膜蛋白質結晶化技術の確立(H19〜H21)

代表機関:京都大学大学院医学研究科
代表研究者:岩田 想

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タンパク質にはさまざまなタイプのものがあり、タンパク質の種類によって構造解析の難易度は異なります。中でも、生体膜に埋まっている「膜タンパク質」は超難関とされています。実際、2008年7月時点でProtein Data Bank(タンパク質の立体構造に関する国際的なデータベース)に登録されている約52,000のタンパク質のうち、膜タンパク質は200程度しかありません。

ですが、膜タンパク質は生命現象の基盤となる役割を担っているものが多く、また、創薬のターゲットとしても期待されています。そのため、膜タンパク質の構造を明らかにすることは、生命科学に大きな進展をもたらす重要なステップなのです。

では、なぜ膜タンパク質の構造解析は難しいのでしょうか。もっとも大きな原因は結晶化の過程にあります。タンパク質を結晶化させるためには、いったん目的のタンパク質を液体に溶かさなくてはいけません。膜タンパク質の場合は水に溶けにくい領域が多いため、界面活性剤で溶かします。そのときに、界面活性剤の集合体(「ミセル」といいます)が膜タンパク質を覆い、結晶ができにくくなってしまうのです。

そこで、私たちは膜タンパク質の特定の部分に結合する抗体をつくり、これを利用して膜タンパク質の結晶をつくる技術を開発しました。この抗体が結合することで膜タンパク質の一部が安定化し、さらに水に溶けやすい領域が広くなるため結晶ができやすくなるのです。この方法を試みたのは世界で私たちがはじめてで、1995年に細菌の「シトクロム酸化酵素」という膜タンパク質の結晶を得ることに成功しました。

当課題ではこの技術を発展させ、あらゆる膜タンパク質に適用できる普遍的な方法を確立しようと考えています。理想とする抗体は、膜タンパク質に結合しやすく、また、水に溶けやすい立体部分にしっかりと結合して、膜タンパク質の構造を安定化させるような抗体です。

そうした抗体をつくるために、マウスの免疫機構を用いて、上記のような抗体を産生する技術を開発しています。膜タンパク質が細胞膜にあるときのかたちを保ったまま、マウスの体内に入れることがポイントです。また、そのようにして得られた抗体から、より優れた抗体を効率よくふるい分ける方法や、進化分子工学という手法で高機能の抗体をつくる技術の開発にも取り組んでいます。そして、最終的にはこれらの技術を組み合わせて、理想的な抗体をつくるためのひとつのシステムを構築したいと考えています。

抗体を用いた膜蛋白質結晶化技術の確立
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