研究課題
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新規味物質・味評価法開発に重要な味覚受容体の構造・機能解析(H19〜H21)

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代表機関:理化学研究所播磨研究所
代表研究者:山下敦子

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ヒトは、甘味・塩味・酸味・苦味・旨味の5種類の味を感じます。そのうち、砂糖など糖類によって引き起こされる甘味と、グルタミン酸などアミノ酸による旨味は、快い感覚を引き起こす味として私たちの食生活を豊かにしています。これらの味は、口に入れた食物が生体に欠かせないエネルギー源(糖類など)やタンパク質源(アミノ酸など)を含むことを示すシグナルになっていると考えられています。

甘味物質や旨味物質の探索や開発の歴史は長く、今では人工の味物質をいろいろ見かけます。しかし、そのほとんどは食品から抽出されたり、偶然発見されたりしたものです。また、味物質の評価もヒトの舌による官能試験に頼っているのが現状です。舌で味物質を感知する詳しい機構がわかれば、これまで以上に科学的・合理的な方法での味物質の探索が可能になるでしょう。

味物質を認識する味覚受容体は、舌上にある味み蕾らいの味細胞にあります。受容体はT1Rファミリーと呼ばれる3種類のタンパク質(T1R1、T1R2、T1R3)のうち2種類が組み合わさってできた複合体で、味細胞の細胞膜に埋まった状態ではたらきます。例えばT1R1とT1R3の組み合わせでは旨味物質を、T1R2とT1R3の組み合わせは甘味物質を感知します。そこで、当課題では味覚受容体が味物質を認識する機構についてさらに詳しく分子レベルで明らかにします。

研究の難しさは、味覚受容体が細胞膜に埋まっている点にあると考えています。このような受容体を、機能を保った状態で大量につくり、さらに膜から取り出して構造解析するには何らかの工夫をしなければならないでしょう。しかし、この「ターゲットタンパク研究プログラム」では、多くのグループが、解析が難しいとされるタンパク質に取り組んでいます。受容体を大量につくって精製し、それを構造解析のために結晶化する手法については、他のグループの研究成果からヒントが得られると期待しています。受容体の立体構造が明らかになった後は、構造に基づいて機能に迫り、味物質が認識される機構を解明したいと考えています。

こうした研究は、いろいろな特徴をもった新規味物質の開発につながることでしょう。例えば、体に吸収されないノンカロリーの味物質を新たに見いだせるかもしれません。それは、メタボリックシンドロームなどでカロリーを制限しなければならない人たちの「生活の質」の向上につながります。科学的な根拠に基づいた味物質開発への期待は大きいのです。

旨味受容体の模式図
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