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アルツハイマー病治療薬創出に向けたγセクレターゼの構造解析と機能制御
代表機関:東京大学大学院薬学系研究科
代表研究者:富田泰輔
2010年版パンフレット(背景と成果)の該当ページはこちら
社会の高齢化が進むにつれ、認知症患者の数も年々増えています。認知症のうちでも、最も多いものの一つがアルツハイマー病です。国内ではアルツハイマー病の症状を抑える薬がすでに使用されていますが、病気のもとを断つ薬は世界的に見てもまだ実用化されていません。介護問題などに対する社会の関心が高まる中、アルツハイマー病の根本的な治療法の確立が急務となっています
アルツハイマー病は脳内でAβというペプチドが集まって固まり、これが蓄積されることで引き起こされます。Aβはアミロイド前駆体タンパク質(APP)という物質から切り出されてできるペプチドで、切り出しの最終段階で働くのがγセクレターゼという酵素です。現在、γセクレターゼを阻害する物質を見つけて、アルツハイマー病の根本治療薬を開発しようと、世界中の研究者がしのぎを削っています。
私たちは、より確実な根本治療薬の開発をめざし、γセクレターゼの作用機構を分子レベルで解明しようと取り組んでいます。まず中心に行っているのは、γセクレターゼの構造解析です。γセクレターゼは4つの因子からなる巨大な複合体で、しかも、その大部分が細胞膜に埋まっています。このようにきわめて珍しい性質をもつため、γセクレターゼの構造解析は技術的にとても難しく、Aβ切り出しの機構を構造面から説明するような知見は皆無なのです。
そこで私たちは、さまざまな角度から撮影した分子の写真を用いてγセクレターゼの全体構造を明らかにする「単粒子解析法」による構造解析と、細胞膜から外に出ているニカストリンという部分のX線結晶解析を行ってきました。ニカストリンはγセクレターゼが基質を認識する部分であり、構造解析から機能を解明する上で、非常に重要な部位なのです。
また、同時にγセクレターゼの活性を制御する化合物や機能抗体の開発も進めており、すでに特許を取得しているものもあります。こうした研究をさらに推し進め、3年間で初期の構造解析を完了させたあと、オリジナルの化合物や抗体を用いてγセクレターゼの構造と活性の相関関係を明らかにしようと考えています。
一方、γセクレターゼはAβ産生のほかに、生物の発生や分化に関わるNotchという重要なタンパク質の切り出しも行っています。特に近年、Notchとがんの関係が明らかになりつつあり、私たちはがんの治療薬の開発をめざした研究も始めました。アルツハイマー病やがんの治療という現代社会の大きなニーズに応えられるよう、γセクレターゼの機構解明にこれからも全力で取り組んでいきたいと思います。

