研究課題
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エネルギー代謝を制御する脱アセチル化酵素SIRT3のケミカルバイオロジー研究(H21〜)

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代表機関:理化学研究所基幹研究所
代表研究者:伊藤昭博

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タンパク質のアセチル化、特にヒストンのアセチル化はエピジェネティックな遺伝子の発現を調節する核内の主要な翻訳後修飾であることは現在よく知られていますが、その契機となったのは、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の特異的でかつ強力な阻害剤であるトリコスタチンAの発見によってヒストンのアセチル化レベルを人為的に制御可能になったことが挙げられます。現在ヒトにおいては18種類のHDACサブタイプが存在し、三つのクラスに分類され、多様な基質特異性と役割分担があることが示唆されていますが、核以外のオルガネラにおけるアセチル化の役割はその存在も含めて最近まで良く分かっていませんでした。HDACサブタイプの中でもクラスIIIに属するHDACはSirtuinと呼ばれ、NAD依存的な脱アセチル化酵素活性を持っています。近年、主に酵母、線虫をモデル動物とした研究により、Sirtuinファミリーの中のSir2は寿命制御因子であることが示唆され、非常に着目されています。

ヒトSirtuinは7種類のサブタイプ(SIRT1-7)が存在します。現在、ヒトSirtuinによる寿命制御に関する研究は非常に着目されていますが、その研究の中心は酵母Sir2と最も相同性の高い核タンパク質であるSIRT1です。私たちは、ミトコンドリアに局在する主要な脱アセチル化酵素SIRT3に着目したところ、SIRT3はミトコンドリアに存在するエネルギー代謝を制御する複数の酵素を基質とし、その活性を制御していることを見出しました。ミトコンドリアは老化に関わるオルガネラであり、エネルギー代謝は寿命と密接に関わることが示唆されていることから、SIRT3はヒトおいて老化を制御するSirtuinである可能性が高いと考えています。

この研究では、ケミカルバイオロジー的手法、即ちSIRT3の活性制御剤を開発し、それを主に用いることによりSIRT3の生理機能、特にエネルギー代謝制御におけるSIRT3の生理的役割の解明を目指します。エネルギー代謝は、肥満や糖尿病など、いわゆるメタボリックシンドロームと密接に関わっています。したがって、本研究で得られたSIRT3活性制御剤は、SIRT3の生理4機能の解明に役に立つだけでなく、肥満の予防薬や糖尿病の治療薬になりうる可能性があります。厚生労働省は、2008年度からメタボリックシンドロームの予防・改善を目的とする新しい健診制度を導入するなど、メタボリックシンドロームの予防は社会的関心となっております。私たちはSIRT3の生理機能の解明を通して、メタボリックシンドロームの予防という現代社会の大きなニーズに応えられるよう、研究を進めて行きたいと考えております。

エネルギー代謝を制御する脱アセチル化酵素SIRT3のケミカルバイオロジー研究
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