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新規炭酸固定系を構成する酵素群の構造機能解析と機能改良
代表機関:京都大学大学院理学研究科
代表研究者:三木邦夫
2010年版パンフレット(背景と成果)の該当ページはこちら
地球温暖化の原因として二酸化炭素の増加が問題になっていますが、大気中の二酸化炭素はいつまでも同じかたちで同じ場所に留まっているわけではありません。地球上に存在する炭素は、大気や海洋、生物の体内などの間を循環しており、さまざまな化合物として存在します。大気中の二酸化炭素は、植物や一部の細菌によってその体内に取り込まれ、グルコースなどの有機炭素に変えられるのです。
このように、二酸化炭素を有機炭素に変えることを「炭酸固定」といいます。炭酸固定の過程に手を加えて、二酸化炭素から有機炭素に変わる反応の効率を上げることができれば、大気中の二酸化炭素量の減少につながるかもしれません。また、農業の生産効率の向上に寄与する可能性もあります。
生物が行う炭酸固定として、今のところ4種類のパターンが知られています。中でもすべての緑色植物が行うCBBサイクルという経路を用いた炭酸固定は、地球上に存在する大部分の二酸化炭素の消費に寄与しています。CBBサイクルではたらくのはルビスコ(Rubisco)という酵素です。ルビスコは全部で4種類あり、このうち私たちは古細菌にのみ存在するタイプⅢルビスコを発見しました。
タイプⅢルビスコの構造を解析したところ、ほかのルビスコとはかなり異なる立体構造をしていることがわかりました。さらに、タイプⅢルビスコが作用する炭酸固定の経路を調べたところ、ある可能性が浮かび上がってきました。タイプⅢルビスコが作用する炭酸固定の経路では、ほかの4パターンの経路には見られないまったく新しい2種類の酵素が関与していたのです。つまり、このことは第5の炭酸固定経路が存在する可能性を示唆します。
そこで、私たちはこの新しい経路に関わる2つの酵素の構造と機能を調べています。これらの酵素は、今まで知られていなかった生物反応にはたらくため、酵素反応の仕組みに関する新しい知見が得られるかもしれません。
一方、タイプⅢルビスコは深海の熱水噴出孔など高温の環境で生息している超好熱菌から得られた酵素であるにも関わらず、常温の光合成細菌の細胞内でも炭酸固定をすることがわかりました。さらに、タイプⅢルビスコの遺伝子が一部変化した酵素を光合成細菌に導入したところ、通常のタイプⅢルビスコを入れた細菌と比べて、増殖スピードが格段に速くなりました。私たちはタイプⅢルビスコを改良し、常温において優れた炭素固定能力をもつルビスコをつくろうと考えています。

