研究課題
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ミトコンドリア呼吸の作用機序の全容の解明を目指す高分解能立体構造解析と機能解析(H19〜H21)

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代表機関:兵庫県立大学大学院生命理学研究科
代表研究者:吉川信也

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左ページの課題は、細菌がATPをつくるときにはたらく酵素を対象にしていますが、私たちは、ヒトをはじめとする真核生物の細胞(真核細胞)がATPをつくるしくみを研究しています。真核細胞は糖をおもなエネルギー源としており、糖を分解して得たエネルギーをATPというかたちに変えています。その仕事を担当しているのが、ミトコンドリアという細胞小器官です。

ミトコンドリアには外膜と内膜と呼ばれる二つの膜があり、内膜にATPをつくるための4種類の膜タンパク質複合体酵素が埋め込まれています。これらをまとめてミトコンドリア呼吸系と呼びます。4種類の酵素のうち3つは、糖の分解で得られたエネルギー(実際にはエネルギーの高い電子)を使って内膜の内側から外側へとプロトン(H)をくみ上げます。すると、内膜の外側にはプロトンがたまっていきます。たまったプロトンが、F1-FoATP合成酵素を通して内膜の内側に流れ込むとき、ATPがつくられるのです。

ずいぶん複雑なしくみですが、このようにして、糖のエネルギーは最終的にATPに変換されます。ATPを得ることは細胞の活動、ひいては生命の維持に欠かせませんから、このしくみをタンパク質の構造に基づいて詳しく理解することはとても重要です。

しかし、内膜にある4種類の酵素のうち、NADH-ユビキノン還元酵素とF1-FoATP合成酵素については、まだ部分構造しか解析されていません。私たちは、この二つの酵素の結晶化条件をこれまでに探索してきており、当課題で結晶化を達成して構造解析を成功させたいと考えています。また、私たちは1995年に、チトクロム酸化酵素のX線結晶構造解析に成功し、その後も解析の分解能を向上させてきています。当課題では、さらに高い分解能でこの酵素の構造解析を行うとともに、プロトンの通り道にある原子の電子状態を、赤外分光法という手法で調べます。何がどこにあるのかを原子レベルで決定した上で、そこでどんなことが起こっているのかを明らかにしようというわけです。そのために、赤外分光法を高感度化する研究も進めます。

個々の酵素のはたらきはもちろんですが、それらの相互作用の解明もミトコンドリア呼吸系のしくみを理解する上で重要です。私たちは、上の3種類の酵素間の相互作用や、チトクロムcとチトクロム酸化酵素の間の相互作用を、NMRやX線構造解析により解析する予定です。

全容の解明を目指す高分解能立体構造解析と機能解析
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