研究課題
技術開発研究課題は右カラムarrow

オートファジーに必須なAtgタンパク質群の構造的基盤

TP Atlas
TP Atlasはこちら

代表機関:北海道大学大学院先端生命科学研究院
代表研究者:稲垣冬彦

2010年版パンフレット(背景と成果)の該当ページはこちら

酵母からヒトまで、あらゆる真核細胞は細胞の中のタンパク質を分解するしくみをもっています。このしくみが「オートファジー」です。オートファジーは、栄養不足のときに細胞内のタンパク質をアミノ酸に分解して生命維持に必要最小限のタンパク質を合成したり、異常なタンパク質や不要なタンパク質を掃除するなど、生物にとって重要な役割を担っています。この現象は半世紀近く前から観察されていましたが、1990年代初頭に酵母を使ってその詳細な機構をはじめて明らかにしたのは、自然科学研究機構基礎生物学研究所の大隅良典博士(当課題の分担研究者)を中心とする日本の研究者たちでした。

オートファジーは次のようなプロセスで進みます。まず、分解すべきタンパク質やオルガネラが二重の膜構造に取り囲まれ、オートファゴソームと呼ぶ小胞ができます。小胞の形成には、Atgタンパク質群と呼ばれるたくさんの未知のタンパク質がネットワークをつくってはたらいていることがわかってきました。オートファゴソームはやがて細胞の中のリソソームや液胞と融合し、さまざまのタンパク分解酵素のはたらきによってアミノ酸やペプチドに分解されます。

タンパク質の構造をNMRやX線を使って調べ、創薬に結びつけることも念頭に研究を行ってきた私たちのグループは、「タンパク3000プロジェクト」以来、大隅グループと連携してAtgタンパク質群の構造や機能を明らかにする研究を進めてきました。すでに6種類以上のタンパク質の構造を解明し、それぞれの役割やネットワークについて報告しています。

オートファジーの研究が世界中で活発なのは、基本的な生命現象の解明につながるばかりでなく、医療や難病の理解に結びつくと考えられているためです。オートファジーは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性性疾患の原因に深くかかわっているようです。このほか、免疫、殺菌、老化、がん化などにも関与していることがわかっており、今後の研究に寄せられる期待はきわめて大きいものがあります。

当課題においても、引き続きオートファジー関連タンパク質の構造を解明するほか、それらの機能も知りたいと考えています。いつの日かオートファゴソームを試験管の中でつくることができれば素晴らしいと思います。

Atgタンパク質群のネットワークと研究の進展。
Atg結合系タンパク質群の構造。
ページトップへ