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キラル化合物の産業生産に有用な酵素の触媒反応機構の解明と高機能化

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代表機関:京都学園大学バイオ環境学部
代表研究者:清水 昌

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右手をどのように動かしてみても、左手にはなりません。しかし、右手を鏡に映してみると、左手と同じ形に見えます。この右手と左手のような関係を、鏡像関係といいます。実は化学の世界にも、私たちの両手のように、鏡像関係にある化合物があります。それが「キラル化合物」です。聞きなれない名前ですが、キラル化合物は身近なところにたくさんあります。たとえば、私たちの体に含まれるアミノ酸もキラル化合物です。

近年、キラル化合物は医薬品製造の中間原料として需要が高まっています。医薬品として用いられるのは、右手と左手にあたるキラル化合物のうちどちらか一方だけの場合がほとんどだからです。このため、狙ったキラル化合物だけを効率よく大量に生産することは、医薬品産業にとってたいへん重要です。

キラル化合物の合成には、有機合成、酵素、微生物が利用されています。その中でも酵素(反応の触媒としてはたらくタンパク質)を利用する方法は効率的で、環境にもやさしいといわれています。たとえば、喘息治療薬やアルツハイマー病治療薬の原料である(R)-3-キヌクリジノールというキラル化合物は、何段階もの有機合成反応を行って合成されていますが、キヌクリジノン還元酵素という酵素を使うと、1段階で合成できるのです。

しかし、酵素がどのようにしてキラル化合物の合成を促進するのか、という触媒反応のしくみについては未解明な部分がたくさんあります。そこで私たちは、キヌクリジノン還元酵素をはじめ、キラル化合物の合成に有用な7種類の酵素の構造を解析することにしました。さらに、これらの酵素と基質(酵素が反応させる相手物質)の複合体もつくって、その構造を解析します。

これらの構造から、酵素が決まった基質だけを反応させるしくみや、キラル化合物の一方だけをつくりだすしくみがわかってくると思います。こうした理解をもとに天然の酵素を改変し、より効率の高い酵素や、天然の酵素ではつくれない物質をつくる酵素を新しくつくり出すのが私たちの目標です。

一般に、酵素と基質が結合すれば反応が進んでしまうので、酵素と基質の複合体の結晶を得ることは困難とされています。このため、基質と似たかたちだが反応はしない物質を使うなどして構造解析に取り組みます。

キラル化合物は、医薬品産業だけでなく、化学工業や農業分野でも必要とされています。私たちの経験と実績を生かしてキラル化合物の合成に役立つ酵素を多数つくり出し、産業に貢献できればと思います。

キラル化合物生産に関わる酵素の触媒反応
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