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タンパクニュースウオッチ

Tanpaku News Watch は、ターゲットタンパク研究プログラムに関連のあるニュースを、Nature (Nature Publishing Group), Science (AAAS/Science), Chemical & Engineering News (American Chemical Society)、GenomeWeb LLCなどより抜粋してお届け致します。GenomeWeb LLCのGenomeWeb Daily NewsとGenome Technology Onlineへのアクセスには登録(無料)が必要です。

最新の5件

  • インスリン受容体がシナプス領域に存在するPIK3への使者となって、記憶・学習が達成される

       インスリン(Insulin) - PI3K(Phosphoinositide 3-kinase)のシグナル伝達パスウエイは成熟脳に広がっており、記憶能力や神経障害と関連することが示唆されている。線虫(C. elegans)において、このシグナル伝達はさまざまな機能を調節するが、連合学習機能もそこに含まれる。野生の線虫は塩濃度と飢餓の関連を学習することができるが(味覚回避条件付け)、インスリン-PI3Kを構成する分子(インスリン受容体"DAF-2"、PI3K AGE-1、下流のキナーゼ)を変異させた線虫は学習能力を失う。今回、東京大学大学院の飯野研究室のチームは味覚回避条件付け線虫において、選択的スプライシングで産生されるインスリン受容体のアイソフォームのうち"DAF-2c"が、細胞体から塩分に感受性があるニューロン"ASER"のシナプス領域へと輸送され、PI3Kの活性を調節することを見出した。DAF-2cは、モータータンパク質"kinesin-1"の軽鎖KLC-2とC末端部位が結合したCASY-1(カルシンテニンの線虫オルソログ)によって輸送されるが、この輸送は、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(Mitogen-activated Protein Kinase: MAPK)パスウエイによって調節される。以上、飢餓状態を感知したMAPKパスウエイの調節を受けて、キネシンに結合したカルシンテニンがDAF-2cをASERのシナプス領域へ輸送し、その結果、PI3Kの活性が上昇するという連合学習機構のモデルが考えられる。シナプス領域に存在するPI3Kを光励起することによって味覚回避行動が引き起こされたことも、このモデルと整合する。モデル生物線虫で得られた知見は、ヒトにおける記憶・学習の機構や神経障害発症機構への手がかりを与える。
    論文→ Ohno H. et al. Role of synaptic phosphatidylinositol 3-kinase in a behavioral learning response in C. elegans. 2014 Jul 18;345(6194):313-7.

  • インスリンとインスリン受容体の複合体構造を解き、結合の分子機構を詳らかにした

       Donald F. Steiner、Michael A. Weiss、Michael C. Lawrence等の米・豪・印の国際チームは、2013年のNature論文に続いて、インスリンβ鎖のC末端セグメントと、インスリン受容体(IR)αサブユニットのL1-CRドメインとαCTドメインで構成した"”microreceptor"(μIR)との複合体構造を解き、インスリンとIR結合の分子機構について考察を深めた。
       今回の論文によれば、インスリンのβ鎖のC末端セグメントは、μIRと結合する際に、PheB24の向きが変わりB25-B28の位置のβストランドがインスリンのαヘリカルのコアに対して60°回転し、レセプターのL1-β2シートと逆平行の配置をとる。言い換えると、β細胞中における安定な構造からβ鎖に組み込まれていたヒンジが開いて活性な構造へと変化する。この構造変化によって、インスリンにおいて保存されている非極性側鎖(IleA2, ValA3, ValB12, PheB24, PheB25)がIRと結合可能になる。ヒンジ開閉とIRとの結合の相関は変異導入実験でも確認されている。ヒンジを閉じた状態に固定すると天然の構造に折り畳まれるがIRへの結合が阻害され、ヒンジを開いた状態に固定すると構造が不安定になり異常な凝集が起きる一方でIRと結合する活性が維持される。この結果はまた、臨床で見出された変異と整合している。インスリンとIRの結合機構が詳らかになってきたことにより、これまでになく安定に保存可能で効率が良く、さらに、血中グルコース濃度に従って活性を自動調節することも可能なインスリン製剤の開発が視野に入ってきた。
    【注】インスリン受容体外部ドメインの構成:L1-CR-L2-FnⅢ1-FnⅢ2α-IDα-αCT(αサブユニットC末端セグメント)-IDβ-FnⅢβ-3
    論文→ Menting JG. et al. Protective hinge in insulin opens to enable its receptor engagement. Proc Natl Acad Sci U S A. Published online before print August 4, 2014
    構造→ 4OGA:insulin/μIR/Fab 83-7 complex
    構造→ 4NIB:insulin analog 1
    構造→ 2MLI:analog 2
    構造→ 2MPI:analog 4
    参考文献(2013年Nature論文)→ Menting JG. et al. How insulin engages its primary binding site on the insulin receptor. Nature 2013 Jan 10;493(7431):241-5.

  • ヒトプロテオーム概要版が駆動する生命科学

       Nature誌2014年8月7日号のNEW AND VIEWSに、 Nature誌2014年5月29日号に掲載された2本のヒトプロテオーム概要版の論文が改めて紹介されている。米国ジョンズホプキンス大学/インドバンガロール・バイオインフォマティクス研究所のAkhilesh Pandey等の国際チームの"A draft map of the human proteome"(以下、Pandey等)とミュンヘン工科大学のBernhard Kuster等ドイツの研究チームの"Mass-spectrometry-based draft of the human proteome"(以下、Kunster等)である:
    【データ源】Pandey等:30種類の正常組織、7種類の胎児組織ならび6種類の造血細胞由来(独自解析)/Kuster等:60種類の組織、147種類の細胞株ならびに13種類の体液由来(60%が公的データ由来、40%が独自解析)
    【概要】Pandey等:タンパク質コード領域の約84%に相当する17,294タンパク質を同定。ゲノム上の偽遺伝子、非コードRNAおよびORF上流領域由来のペプチドも含む。すべての試料に存在してタンパク質量の多くを占める2,350のタンパク質を特定。/Kunster等:Swiss-Protに登録されているORFの92%に相当する18,097タンパク質を同定。また、長鎖遺伝子間非コードRNA(long intergenic non-coding RNA; lincRNA)のペプチドも含む。10,000~12,000種類のタンパク質が由来組織全般に存在するが、組織によって発現量が大きく異なることを発見。
    【データと利用環境提供】Pandey等:Human Proteome Map(HPM)/Kunster等:ProteomicsDB(インメモリーデータベースを利用)
       HPMとProteomicsDBは、抗体法に基づくHuman Protein Atlasや、抗体法と質量分析法を併用しているHuman Proteome Projectの成果とともに、質量分析によるタンパク質アッセイ法の最適設計、ゲノムアノテーションの検証と高度化、定量的タンパク質解析などの基礎研究から個別化医療までを支える情報基盤となる。
    【注】本NEWS AND VIEWSの著者Robert T. LawrenceとJudit Ville?nが所属する米国ワシントン大学ゲノム科学部門のVille?n研究室は、測定技術と計算解析技術を開発しつつプロテオーム解析に取組んでいる。
    NEWS AND VIEWS → Lawrence RT, Villen J. Drafts of the human proteome. Nat Biotechnol. 2014;32(8):752-3. Published online 5 August 2014
    論文→ Kim MS. et al. A draft map of the human proteome. Nature 2014 May 29;509(7502):575-81. Published online 28 May 2014
    論文→ Wilhelm M. et al. Mass-spectrometry-based draft of the human proteome. Nature 2014 May 29;509(7502):582-7. Published online 28 May 2014

  • タンパク質間の関係性で構成される空間は離散的か連続的か?

       イスラエルのハイファ大学テルアビブ大学の研究チームは、タンパク質のドメイン(domain)・ネットワークとモチーフ(motif)・ネットワークによってタンパク質の関係性と進化過程を包括的に理解することを試みた。ドメイン・ネットワークは、SCOPドメインをノードとし、同一モチーフを共有するドメインを連結するエッジで構成される。モチーフ・ネットワークは、モチーフをノードとし、同一ドメインに共存するモチーフを連結するエッジで構成される。
       始めに、配列同一性が70%までのSCOPドメイン9,710件を対象として、SSM法による総当たり構造アラインメントを加え、全てのペアについて、整列した(aligned)配列領域の長さ(以下、L)と全長に占める割合(以下、R)ならびに立体構造上の差異(平均二乗偏差; rmsd)を算出した。次に、L、Rならびにrmsdに閾値を設定して絞り込んだアライメント結果に基づいて描いたネットワークに分析を加えた。
       当然予測される通り、閾値設定を厳しくする従って、ドメイン・ネットワークの形状が、ドメインが密に相互連結されている連続的ネットワークから、ドメインが孤立した離散的ネットワークへと変化した。その中で、中間的設定(例えば、L 75残基、R 25%、rmsd 2.5Å)において、連続的ネットワークと離散的ネットワークの双方が現れた。連続的ネットワークには、αヘリックスとβストランドが交互に並んでいるドメイン(α/βドメイン)が集中していた。離散的ネットワークは、それぞれがフォールドに対応している互いに孤立したαヘリックスで構成されるドメイン(all-αドメイン)、βシートによって構成されるドメイン(all-βドメイン)、あるいはαヘリックスとβストランドが離れて存在するドメイン(α+βドメイン)の集合であった。 8,219種類のモチーフ間の関係性を示すモチーフ・ネットワークにおいても同様に、主としてα/βドメインおよびいくつかのall-αドメインから成り立つ連続的ネットワークと、それ以外のドメインが孤立した離散的ネットワークが現れた。
       論文では、ドメイン・ネットワークとモチーフ・ネットワークを「歩く」ことによって、進化過程におけるドメインとモチーフの安定性に関する考察や、ドメインの進化経路の推定が行われているが、広く一般に、CytoscapeとPyMOLをインストールすることによってドメイン・ネットワークを「歩く」ことが可能である。
    論文→ et al. Nepomnyachiy S, Ben-Tal N, Kolodny R. Global view of the protein universe. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Aug 12;111(32):11691-6. Published online 28 July 2014

  • マルチプラットフォームの測定結果に基づいて悪性腫瘍のサブタイプを新たに定義、がん患者10%に療法の見直しが必要に

       The Cancer Genome Atlas (TCGA) Research Networkは、病理組織学的分類による腫瘍型ごとにゲノム解析を進める中で、一種類の人体組織に由来する腫瘍が、数種類のサブタイプに分類されることを示して来た。今回、TCGAのPan-Cancerイニシアチブは、12種類の腫瘍型を横断する3,527サンプルを、6種類のプラットフォーム(注1)で分析して得たデータに基づいてクラスター分析し(注2)、11種類のサブタイプ(以下、COCAサブタイプ)を同定した。
       COCAサブタイプのうち5種類は、従来の病理組織学的に分類された腫瘍型とほぼ一致したが、残りの6種類のサブタイプと腫瘍型とは入り組んだ対応関係を示した。腫瘍型の複数が一つのサブタイプに集約される一方で、一つの腫瘍型が複数のサブタイプに分類されることになった。例えば、肺扁平上皮癌、頭頚部癌ならびに膀胱癌の一部が、腫瘍タンパク質p53の変異・腫瘍タンパク質p63の増幅・免疫系と増殖系のパスウエイの高発現を典型とする同一のサブタイプに集約される一方で、膀胱癌は、前述のサブタイプに加えて、膀胱癌だけのサブタイプと肺腺癌も属するサブタイプの計3種類に大別された。また、膀胱癌のサブタイプと腫瘍の悪性度に相関があることが見出された。乳癌も複数のサブタイプに峻別された。このようなCOCAサブタイプと従来の腫瘍型の比較対照の結果、サンプルの10%程度が従来の腫瘍型とは異なるサブサイプに分類されることから、該当する悪性腫瘍の患者のための療法を見直す必要があると考えられた。
       腫瘍のサブタイプ(分類体系)は本来、由来組織よりも上皮性か非上皮性かといった由来細胞の種類に依存し、ひいては、由来細胞をとりまく微小環境ならびに由来細胞におきている遺伝的変異に依存すると考えられる。今後、腫瘍型の種類とサンプル数へと解析を拡大し、現行COCAサブタイプよりも網羅的でより完成度の高い分類体系を確立・公開して、診断と治療の個別化・精密化に貢献することを目指す。本論文で解析に使用したデータセットと解析結果はすでにSynapseのWebサイトから再解析可能な形で入手可能である。
    【注1】6種類の実験プラットフォームは、エクソーム解析、mRNA配列解析、miRNA配列解析、SNPアレイ解析ならびにDNAメチル化アレイ解析の5種類のゲノム解析とプロテオーム解析(RPPA)
    【注2】クラスター分析は、プラットフォームごとのクラスター分析に加えてTCGAにおける乳がんコホート分析のために開発されたアルゴリズム"cluster-of-cluster assingment (COCA)"による統合的なクラスター分析が行われた。キーワード
    論文→ Hoadley KA. et al. et al. Multiplatform Analysis of 12 Cancer Types Reveals Molecular Classification within and across Tissues of Origin. Cell 2014 August 14;158(4):929-944.Available online 7 August 2014

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